Above & Beyondって、誰?

 

タイトルだけ乃木どこオマージュしました。内容に乃木どこは関係ありません。

 

さて、夏のビッグフェスであるサマーソニックにAbove & Beyondの出演が決定しました。個人的に2017年中の来日はないと思い込んでいただけに非常に驚きました。
しかし2017年現在、ヘッドライナーを務めるCalvin Harrisに比べてAbove & Beyondの日本での知名度、注目度が低いのは事実です。
以前からAbove & Beyondの紹介記事を書くつもりで、そしてサマーソニックに来る人に少しでもAbove & Beyondに興味を持ってもらいたい、ということで今回はAbove & Beyondを知らない、少しだけ知っているという方々へ向けた記事です。

 

(2017/8/9追記:サマソニ予習用プレイリストを一番下に掲載しました) 

(2019/1/9加筆・訂正:2017サマソニの前に書いたものなので内容が古かったり偏っていたのをいろいろ足したり直したりしました)

 

 

 

 

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Above & Beyondは2000年にロンドンで結成された3人組のグループです。結成後すぐにMadonnaのリミックスを手がけ、2004年にOceanLabという別名義でリリースされた"Satellite"はUKシングルチャート19位にランクインしました。その2004年から2006年まで3年連続で、トランスの世界で最も有名なラジオショーである"A State Of Trance"でのリスナー投票による"Tune Of The Year"に彼らが手がけた楽曲が選ばれました。2006年には初となるスタジオアルバム"Tri-State"をリリース、その後2018年までに、自身の楽曲をアコースティックアレンジするというプロジェクトを含む6枚のアルバムをリリース。最新のアルバムである"Common Ground"はビルボード誌のメインチャートで3位を獲得したことがファンの間で大きな話題となりました。そして2016年には"We're All We Need"が、2019年には"Northern Soul"がグラミー賞にノミネートされるなど、その実力はトランス界屈指のものです。

また、楽曲制作を開始したのとほぼ同時期にAnjunabeatsというレーベルを立ち上げました。彼らのキャリアと歩みを共にしてきたこのレーベルは設立当初から非常にハイクオリティな楽曲を多く世に送り出してきており、かのArmin van BuurenやFerry Corstenといったトランス界の頂点に立ったアーティストもリミックスという形で楽曲を提供しています。楽曲のクオリティもさることながら、若手アーティストを育成することにも長けており、2013年にリリースしたアルバム"Damage Control"がグラミー賞にノミネートされ、トランスのみならずハウスやドラムンベースの領域でも活躍しているMat Zoや、2009年のデビュー以降瞬く間にスターダムを駆け上がっていき、現在ではArmadaやAxtoneなど名だたるレーベルで看板としての地位を確立したARTYなど、Anjunabeatsでの活動がきっかけとなって世界へ羽ばたいていったアーティストも少なくありません。

さらに、ダンスミュージックという分野で活躍するアーティストの常として、彼らも自前のラジオショーを配信しています。2004年から"Trance Around The World (TATW)"として配信が開始され、エピソードは450を数えましたが、2012年10月にその看板を刷新し、新たに"Above & Beyond Group Therapy Radio (ABGT)"としてナンバリングをリセットしました。通算では2018年時点で750以上のエピソードがある、非常に歴史のあるラジオショーです。TATW時代の300回を記念したモスクワでのイベント以降、50回区切りで年に1度の大規模なフェスを開催するのが恒例となっており、過去にはニューヨーク、ロンドン、シドニーなど英語圏はもちろん、アムステルダムベイルート、香港といった洋の東西を問わないグローバルなイベントとなっています。


実力とともに人気も兼ね備えており、2006年から2012年まで7年連続"DJmag Top 100"においてトップ10に、また2012年にMixmagが発表した"Greatest Dance Act Of All Time"では、上位にThe ProdigyDaft PunkThe Chemical Brothersなどそうそうたるアーティストが並ぶ中19位にランクインしています。


3人のうち右側、眼鏡をしたブロンドの短髪の男性がTony McGuiness(トニー・マッギネス)です。彼は最もAbove & Beyondの中でメディアへの露出が多く、フロントマン的な存在になっています(他の2人が全然出ないわけではありません)。
続いて左側の、眼鏡をしていないスキンヘッドの男性はJono Grant(ジョノ・グラント)です。おそらく楽曲制作の重要な部分を担当していると思われ、自身のtwitterでは時々作曲風景を公開しています。
最後に真ん中、黒髪で眼鏡をしている男性がPaavo Siljamaki(パーヴォ・シリャマキ)です。フィンランド出身である彼はいつもカメラを持ち歩いていたり、DJ中に一番ぴょんぴょん跳ねていたり、どことなくかわいいキャラクターの持ち主です。
彼らのキャリア初期と日本でのサイバートランスブームが重なっていたため、浜崎あゆみの"M"やELTの"Face The Change"をリミックスしていました。来日は何度もしており、彼らがAbove & Beyondという名義で初めてイベントでプレイしたのはavex主催のサイバートランスのフェスであったと発言していたり *1 、またPaavoの奥さんは日本人であり、子どもにも日本風の名前をつけている *2 など、日本との関わりもあります。

オフィシャルではこの3人での活動がAbove & Beyondとしての活動ということになるのですが、いわゆる「公然の秘密」として、もうひとり別のアーティストがAbove & Beyondの楽曲制作に非常に重要な貢献をしています。Andrew Bayerという人物がその人です。2006年にAlan NimmoとのユニットであるSignalrunnersでAnjunabeatsからデビューし、2009年頃からソロとして活動を始め、以後ほとんどすべての作品をAnjunaからリリースしています。彼がAbove & Beyondの作品に関わっていることが明確になったのは"Group Therapy"からで、このアルバムでは2曲の作曲を担当し、以後2017年にリリースされた1曲を除く*3 全てのAbove & Beyondの楽曲に"Additional Production: Andrew Bayer"として表記されている、欠かすことのできない大きなピースのひとつです。彼の貢献であると直接言及してはいないものの、2015年の"DJmag Top 100"のAbove & Beyondに対するインタビューでは「ちゃんと記載しているのであればなんら問題はない」という趣旨の回答をしている*4 ほか、2019年のグラミー賞ノミネートを祝したレーベルのツイートにもしっかり名前が載っていること *5 からも、ほぼ4人目のメンバーと考えてもいいのではないでしょうか。

 


Above & BeyondをAbove & Beyondたらしめているもっとも重要な要素は彼らが長年かけて形作ってきた世界観です。
現在の彼らの世界観の基礎となっているのは2011年にリリースされた"Group Therapy"というアルバムです。タイトルからわかる通り、サウンド面での激しさはかなり薄いアルバムで、美しくしなやかなメロディと弦楽器やピアノによる優しい音色により、豊かな表情と叙情性を持っています。
彼らが他のトランスのアーティストと異なる点は、サウンドとアーティスト自体のキャラクターの両方に「優しさ」や「穏やかさ」という面を大きく打ち出していることにあるでしょう。トランスと聞くと派手なサウンドでガンガン踊るための音楽、と思われる方も多いと思いますが(実際それは正しいものです)、彼らの楽曲は派手さを抑えたものが多く、マッシブさやダーティさが好まれる昨今のダンスミュージックシーンにおいて貴重な存在となっています。
また、彼らが主宰するレーベルであるAnjunabeatsと彼ら自身には熱狂的なファンが多く存在します。そのようなファンを"Anjunafamily"と称し、積極的に一体性を打ち出しており、先に挙げたアルバムのタイトルにも繋がるのですが「アーティストとその周囲の存在、そしてファンが全体で作り出す一体感」が非常に大きな魅力となっているのです。
後ほど詳しく説明しますが、視覚面でも他のアーティストにはない、彼ら独自の演出がなされており、それもまたファンを虜にする要素の一つになっています。

 


Above & Beyondは15年以上のキャリアがあるベテランであり、それゆえサウンドも今と昔で大きく変わりました。現在のDJで"Group Therapy"以前の曲が使われることはかなり少ないので、今回は最近のものに的を絞って紹介します。
他のアーティスト同様、彼らのDJでは必ずと言っていいほどプレイされる「定番曲」がいくつも存在します。

 

 

この曲は彼らの曲の中で最も有名な曲の一つです。"Group Therapy"に収録されており、印象的な歌詞がとても魅力的で、海外では必ずオーディエンスの大合唱となります。近頃はライブの最終盤、ある重要なタイミングでプレイされることが多く、流れれば最も盛り上がる一曲となるでしょう。

 

続いての曲も"Group Therapy"からシングルカットされた曲です。終盤にプレイされることが多く、ストレートな歌詞と共に映し出されるハートマークはとにかく記憶に残ります。

 

先程までとは打って変わって、この曲はメロディよりもサウンドで聴かせるタイプの純粋なパーティチューンです。大きな会場でこそ映える、まさにビッグフェスのためにあるような曲です。

 

2018年7月にリリースされた最新に近い楽曲です。原曲はダンスミュージック色が一切ない音楽ですが、一気にスタイルを変えてフロアを熱狂させるテンションの楽曲に仕上げてくる手腕は見事というほかにありません。


他にも有名な曲、定番の曲は数多く存在しますが、あまりたくさん載せると長くなりすぎるのでこの程度に留めておきます。YoutubeにはAbove & Beyond公式チャンネルがあり、そこではほぼ全ての曲が網羅されているので気になった方は検索してみてください。

 


Above & BeyondはDJの際、使用する曲のほとんど全てをAnjunabeatsの曲で固めているため統一された雰囲気を味わうことができます。また視覚面では他のEDMアーティストによく見られる複雑な素材をいくつも使った高度な映像ではなく、シンプルながら印象的なモチーフを多用し、ここでも差別化が図られているのですが、さらにその場で打ち込んでモニターに表示するテキストメッセージというものがあり、これが非常に重要な役目を担っています。
テキストメッセージを用いることで、プレイ中にマイクを取って話す必要がなく、オーディエンスは聴覚面で音楽に集中することができます。何を言っているのか聞き取りにくい、音楽の邪魔になる、といったことが起きなくなるので非常に合理的であり、またここから生み出されるメッセージが世界観の形成に決定的な役割を果たすものでもあるのです。
このテキストメッセージはよくある"1,2,3, Jump!"や"Put your hands up in the air!"などといった単純な客煽りではなく、歌詞をメッセージとして打ち込んだり、これからプレイする曲の簡単な紹介をしたり、現地の言語で挨拶をしたり、そして何よりも、小説の一節のような、詩的でメッセージ性の強い文章を伝えることが目的なのです。
その中でもいくつかお決まりのメッセージというものがあり、例えば"LIFE IS MADE OF SMALL MOMENTS LIKE THESE"というメッセージは彼らの曲のタイトルにもなっています。

 

これ以外にもいくつか個人的に好きなメッセージがあるのでその画像を載せておきます。

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これらのテキストメッセージから、盛り上げることだけに重きを置くありきたりなフェスDJとは違った、「優しさ」や「家族のような一体感」といったAbove & Beyondらしさを少しは感じていただけると思います。

 


もう一つ、彼らのDJで忘れてはいけないイベントがあります。"Push The Button"というものです。
曲紹介でちらりと書いた「重要なタイミング」というのはこのことで、プレイ中に曲を一旦ストップして観客をステージに呼び、その観客にCDJの再生ボタンを押してもらう、というオーディエンス参加型の演出です。

おそらく、全Above & Beyondファンの夢であり、会場の熱気が最高潮になる瞬間でしょう。このためにとても凝った作りのサインボードを準備したり、少しでも目立つ格好をしたりとアピール合戦が起きるのですが、そういった行動を通すことで「イベントに自分も参加している」という意識がより強くなり、ただ音楽を聴くというだけに留まらないイベントへと変化するのです。
この演出があることで、選ばれたファンには一生の思い出になり、選ばれなかったファンも選ばれた人に声援と拍手を送り、Above & Beyondはファンと最も近い距離で交流でき、全ての人々が一体になることができるとても幸せな演出だと言えるのではないでしょうか。

 

 


ここまで長々とAbove & Beyondについて説明してきましたが、これを読んでどんな人達なのかわかった、曲を聴いてみよう、という気持ちになった人が居ればそれ以上に嬉しいことはありません。
Above & Beyondに触れた瞬間、イベントに参加した瞬間から、あなたはAnjunafamilyの一員です。共にAbove & Beyondへの愛を分かち合いましょう。

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*1: https://twitter.com/jonogrant/status/898157632774705152

*2: アルバムのブックレットのSpecial Thanks参照

*3:No One On Earth (Gabriel & Dresden Remix / Above & Beyond Respray)

*4: https://djmag.com/top-100-djs/poll-2015-above-beyond

*5: https://twitter.com/anjunabeats/status/1071107853543489536